ホメロスとラテン文学の2人の文豪

『アエネーイス』第1巻の巻末には
トロイからカルタゴまでの艱難辛苦の旅路を物語ってくれるよう
カルタゴの女王ディドがアエネーアースに頼む部分があり
続く第2巻からアエネーアースのトロイ戦争譚が始まると予期させるが
その通りで以下のような構成で話は進む

第2巻 トロイ陥落
第3巻 トロイからカルタゴまでの漂流

こうして2巻に渡って語られるアエネーアースの回想は
ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』の間隙を埋めるような内容だ

「トロイ陥落」のシーンは『イリアス』にはなく
続編の『オデュッセイア』でオデュッセウスの回想として語られるのだが
勝者であるギリシア方のオデュッセウスに対して
敗者であるトロイ側のアエネーアースでは
同じコトでも見方は180度違ってくるワケで
その辺を併せ読むとどちらもより一層深みを増してくる

これはウェルギリウスが意識的にリスペクトしてるのだろうが
焼き直し(オリジナルをコピーしてるだけ)ではなく
隙間埋め(オリジナルにはなかったがそうだっただろうと思わせる付け足し)なのが
ヲタ的に嬉しいしその才気に感服せずにはいられナイ(-人-;)

しかし天才はウェルギリウスだけではナイ
ほぼ同時代のオウィディウスの『変身物語』も
ギリシア・ローマ神話の総決算的な挿話集となってて
『アエネーイス』と同じように
巻末の方には「トロイ陥落」以降のアエネーアースからアウグストゥスの帝政ローマまであって
これがまたちょうど『アエネーイス』で飛ばされてる部分が詳述されてるるる~

スタイル的にも両者は好対照で
オウィディウスの『変身物語』が幻想文学的で
ウェルギリウス『アエネーイス』は歴史スペクタクルだ

また『イリアス』と『オデュッセイア』は
何世紀にも渡って多くの吟遊詩人たちに謳われてきてるので
その間に練られてきたモノを文献の形にした際にホメロス作だと冠したが
実際にはホメロスだけの手によらナイコトが明白で
それに比するのもなんだがウェルギリウスとオウィディウスが
夫々に大叙事詩を一生の内に完成させたのはむしろ凄いと思うのだ

ところで『アエネーイス』で敵の大将トゥルヌス打倒で話が途切れてるのは
それから先の話がそれまでに何回か【予言】の形で出てるので
結末は全く不明ではナイどころか
当時のローマ人にしてみれば『アエネーイス』以降の話はよく知った話で
ウェルギリウスにわざわざ詳述されるまでもなかった

それぞれ独立してたローマ建国神話が1つに繋がって
最終的に時の人アウグストゥスに及んでるコトが肝要だったのだが
最も重要なのはその前に”原初に”何があったかなのだ

ギリシア人のルーツはギリシア神話にあるが
ローマ人のルーツもこれに倣う、自らが蹂躙した民族に倣うのだが
このローマ人の素直なおおらかさが人として美しくて好きだw

そして今更ながらタイトル表記の問題に触れておくと
ここでは慣れ親しんだ岩波文庫に倣って「アエネーイス」と統一したが
愛用の『世界史用語集』にも「アエネイス」とあるし
近年になるに従って長音無視の傾向なので(※)
長音を無視した「アエネイス」の方が今では一般的だと思ってた
死語であるラテン語ではネイティヴはいナイのだし、ましてや日本語表記となっては正しいもへったくれもナイ
ギリシア語でも長音無視型が当たり前となり、今では【プラトーン】と言ったら哲学者でなく映画のタイトルだw

しかしながらググってみると予想外に「アエネーイス」の方が多かった?!

本来のラテン語表記ではAeneisでこれを発音する場合は
岩波文庫版の解説にあるように母音の長短の別がはっきりしてて
実際にラテン語に忠実なのは「アエネーイス」だ

同じ理屈で主人公の名であるAeneasも
岩波文庫版の「アエネーアース」が正しい発音に近いようだが
ググってみたら「アエネーアース」はやはり少数派で「アエネアス」が1番多かった

でも次点の「アイネイアス」が日本では主流ぽい
岩波文庫版のオウィディウスの『変身物語』もこれだ

「アエネーアース」と訳した泉井久之助は
長音を正確に近い形で付し韻律を崩さずに訳してるからで
「アイネイアス」と訳した中村善也は
散文訳にしたので時代に即した長音無視型でも構わナイワケだ

両者ともそうして訳してる、と先に断りを入れてるので
Aeneasの日本語読みは訳者の考え方の違いでしかナイ

だがしかし!
ラテン語系列の原語の表記を調べてみたら
フランス語、イタリア語、スペイン語で順にEnee、Enea、Eneasで
どれも〔アイ〕で始まるのには違和感があるるる~
なので「アエネーアース」に統一した

作者の名前もラテン語の綴りはVergiliiなので
そのままの綴りで読み方を自国風にする英語圏では「ヴァージル」となってしまうし
日本でもそれと似た傾向があるのでローマ字読みで「ヴェルギリウス」とされたり・・・
まあラテン語についてローマ字読みってのもおかしいがヽ(゚∀。)ノ
あるいは英語圏経由で「ヴァージル(バージル)」となってたり
ダンテは『新曲』で「ウィルジリオ」とか「ヴィルジリオ」とか呼んでるし
どうにもいかんせんちぐはぐだったが
近年はラテン語発音に忠実な「ウェルギリウス」が汎用となってるようだ

岩波文庫ではもちろん「ウェルギリウス」となってて
自分もこれで行こうと納得してるのだが「バージル」には思い入れがある

イブの息子たち (1) (白泉社文庫)

青池保子のマンガ『イブの息子たち』に出てくるのだ、バージルとゆー詩人が!
これは当然ながらウェルギリウスがモデルだ!!

『イブの息子たち』は小学生の時に大好きだったマンガで
アレクサンドロス大王からニジンスキーまで
史上に異彩を放つ傑出したキャラが総出演してるのだが皆どこか壊れてたw

その中で信長の小姓の美少年で名高い森蘭丸と眼力勝負してたのが
準主役だったこのバージルだった

パタリロ 85 (花とゆめCOMICS)

同じ頃やはり愛読してた『パタリロ!』にも
(ってか今でも全巻&番外編も蒐集してるくらいだが)
美少年をなぎ倒す眼力の持ち主バンコランが登場するのだが
バージルとバンコランで勝負して欲しいものだし
森蘭丸とマライヒの一騎打ちなんてのも゚+.(・∀・)゚+.゚イイね

美少年同士が絡む図は睦み合うより死闘の方が絵になるのだ・・・ホゥ(*-∀-)