ヘラ(ユノー)の嫉妬

ウェルギリウスの『アエネーイス』の構成は
結末を冒頭で先に告げておいて全12巻をとくと読んでもらおう
って自らネタバレする大胆不敵さだが
当時(アウグストゥスの頃)『アエネーイス』を読む人は
アエネーアースがローマ建国の祖であると知ってて読んでたのだから
ある意味ネタバレの心配のしようもなかったかもだ

第1巻の巻頭でも

わたしは歌う、戦いと、そしてひとりの英雄を――。
神の定める宿命の、ままにトロイアの岸の辺を、
まずは逃れてイタリアの、ラーウィーニウムの海の辺に、
辿りついた英雄を――。

と謳われて始まるので
そのすぐ後に「トロイを出航したアエネーアース一行が
ユノー、つまりヘラの妨害で暴風雨に遭って
新トロイア(現イタリア)を目指してから7年を費やしてた」とあっても
ヘラの妨害なんのそのでイタリアに辿り着いてしまうとわかるw

ただちとわかりづらいのが
なぜヘラがアエネーアースを妨害するのかだ

1つは【パリスの審判】で
トロイの王子パリスがヘラ、アプロディテ、アテナの3柱の女神から
最も美しい女神を結果的にアプロディテと判定した

そもそも判定役はヘラの夫のゼウスだったのだが
誰を選んでも他の2柱からの怨恨は免れナイだろうと臆したのか
この役目をパリスに振ったのだ

まだパリスがイデ山で羊飼いをしてた時
金の林檎を持ったヘルメスと上記3柱の女神が現れて
最も美しい女神に金の林檎を渡すように促され
女神はそれぞれに選ばれた際の賄賂をパリスに約束して
なんとか選んでもらおうとする(女神のワリになんつ~姑息なw)

これでアプロディテが金の林檎を受け取ったので
約束の賄賂である世界一の美女ヘレネをパリスに賜ったワケだ
(おかげでトロイ戦争が勃発してしまうのだがね)

ヘラとしては最高神ゼウスの妻であるプライドからも
アプロディテに負けたのがよほど悔しかったのだろうが
ヘラはこの恨みや怒りを判定したパリスにぶつけ
このコトが尾をひいて始まったトロイ戦争でもヘラはギリシア勢を応援してた
てか、ヘラはパリスをトロイもろとも叩き潰したかったに違いナイ。(´д`;)ギャボ

なぜならヘラは以前からトロイ王家に怨恨があったからだ
これがゼウスによる【ガニュメデスの誘拐】事件で
本来なら浮気性の夫のゼウスに向けるべき怒りだと思うのだが
女ってモノはヘラに限らず、どうも相手の女を呪ってしまう傾向があるようで
女神とはいえ、ヘラももれなくそんな女だった。(゚д゚lll)ギャボ

ちなみに相手はトロイのガニュメデス王子で男なのだがなヽ(゚∀。)ノ

トロイ戦争 (洋販ラダーシリーズ)

ところでガニュメデスとパリスとアエネーアースは揃いも揃って超絶美形らしいが
稀有な美形を続々排出しまくるトロイ王家についてちょっと解説

トロイ王家の祖はトロス王で
このトロスの祖父がダルダノスで
ダルダノスはゼウスがアトラスの娘エレクトラに産ませた子だ
って、またゼウスのお手つきかょ(;つД`)

だいたいアトラスとオケアノスの間に生まれた7人の娘は
ゼウスがお手つきしまくりで
エレクトラが産んだのがダルダノスだが
ターユゲテーが産んだのがラケダイモンで
マイアが産んだのがヘルメスだ

パリスの生まれたトロイ王家の祖であるトロスの祖父ダルダノス
ヘレネの生まれたスパルタ王家の祖であるラケダイモン
そして【パリスの審判】で金の林檎をパリスに授けたヘルメス
皆アトラスとオケアノスの7人の娘から産まれてたのだ、しかも父親はゼウス(※)・・・バタリ ゙〓■●゙
残りの娘はゼウスの兄弟であるポセイドンのお手つきだったりする

自分も今まで気づかなんだが
アトラスとオケアノスの7人の娘は
トロイ戦争にとっては宿命的な存在だったのだな?!

トロイ王家に話を戻すと
トロスの一番上の息子はイーロスでこの名がイリオンの地名になり
二番目のアッサラコスが兄イーロスの娘と結婚して生まれたのが
アンキセス・・・後のアエネーアースの父なのだ!

そして一番下がガニュメデス王子で
結婚する前にゼウスに浚われて、神々の宴で給仕をさせられて、ヘラには睨まれて
挙句に星(水瓶座)になった美少年だ!!

アンキセスも美の女神アプロディテの寵を得るほどの美形で
間に生まれたアエネーアースも美麗なのは当然か?!

プリアモス(別名ポダルケース)はイーロスの息子で
アンキセスからすると複雑な系統にあたり
母親の腹違いの兄で父親の兄の息子って、え~と(-_-;)???

更にメンドウなのはアンキセスの息子のアエネーアースが
プリアモスの娘(ヘカベが産んだクレウーサ)を妻にしてる点だが
アンキセスからするとプリアモスは息子の嫁の父親ってコトになって
これがある意味1番わかりやすいか

以上の系譜はアポロドーロスの『ギリシア神話』を参考にしたが
ギリシア神話の家系図を調べる時には最も役に立つ。・゚・(ノД`)・゚・。

変身物語(転身譜)

ギリシア神話としてオウィディウスの『変身物語』は正統派ではなく
ラテン文学においてギリシア神話を集大成した詩集で
専ら恋愛を中心とした娯楽的要素を重視しつつ
タイトルにもあるように「変身」が含まれるエピソードを編んでる

オウィディウスは第2回三頭政治(※)~初代皇帝アウグストゥスの頃の人だが
少し年長のウェルギリウスの『アエネーイス』と同様に『変身物語』も時代背景を反映してて
アウグストゥスの帝位に正統性を、むしろ神性をも付与するために
古代ギリシアでの神と英雄の系譜にアエネーアースからアウグストゥスまでが継ぎ足されてるるる~
アントニウス、レピドゥス、オクタウィアヌスによって結成

巻15まである大作で岩波文庫では上巻に巻1~8、下巻に巻9~15と収録してて
上下巻で計737ページのヴォリュームだけあってギリシア神話を網羅してる感があり
話が連続してて巻の間でも隙がなく一気にも読めるし拾い読みもまた愉しい
索引はナイのだが詳細な人名の目次なので辞典的な使用も可能だ

ピュグマリオン効果―シミュラークルの歴史人類学

自分はオルフェウス(本文中オルペウス)の物語から始まる巻10を【美少年奇譚】と称してるが
他にキュパリッソス、ガニュメデス、ヒュアキントス、アドニスが登場し
ついでにフィギュアヲタの元祖ピュグマリオンも同じ巻にあるのだが
ナルキッソス(ナルシス)だけが巻3収録だ

Ovid Metamorphoses

そして美少年より気がかりなのが酒の神ディオニュソスや牧神パーンの存在だ
シュリンクスを追う牧神パーンは牧神パンだが
怪物テュポン(本文中テュポエウス)から逃れるのは酒の神バッカス(本文中バッコス)で
アポロンの竪琴と競って葦笛を演奏したのは獣神(サテュロス)のマルキュアスで
ミダス王の願いを叶えるのは獣神(サテュロス)のシレノスだ

ローマ時代にはディオニュソスは完全にバッカスに取って代わられたのか?
それともヘルメス→メルクリウス、アプロディテ→ウェヌスのように呼称の変化だけだろうか?

トロイ戦争については巻12~13を中心に収録されてて
特に巻14はヘクトルの死後(『イリアス』以降)に詳しく
アエネーアース(本文中アイネイアス)の新しいトロイ建国への出航と
オデュッセウス等ギリシア勢の帰国譚がある

またアキレウスの両親やトロイのプリアモス王の嫡男アイサコスも巻11にあり
アキレウスを養育したケンタウロスのケイロンの過去についても
巻2の「大鴉・コロニス・小鳥」「オーキュロエ」「バットス」にあったりして
トロイ戦争関連の記述は充実してる

メタモルフォーシス ギリシア変身物語集 (講談社文芸文庫)

惜しむらくはヘラクレスの凶暴なドSからMへの転身の話がなかったコトだが
この逸話はもっと後世に作られたのかもしれナイな

それにしてもタイトルから予想される通りに
何かに変身(転身)した話に限定されて載ってるはずなのに
ギリシア神話の殆どを網羅してるって
どれだけギリシア神話では変身が日常化されてるのだろうか(゚ ゚;)

ところで岩波文庫の邦題は『変身物語』だが
自分の愛用してる山川世界史用語集には『転身譜』となってて
こちらの方が優美なカンジで好みなのだが・・・ホゥ(*-∀-)

アレクサンドロス・パリス

ガニュメデスはギリシア神話に出てくる美少年で
トロイの王子だったが鷲に化けたゼウスによって誘拐された

ルーブル美術館所蔵のガニュメデスと伝えられるこの像は
最高神ゼウスに惚れられるのに似つかわしい美形で
フリュギア帽を被ってるのがトロイの王子としての特徴だろう

この像は万が一ガニュメデスでナイとしたら
それはアレクサンドロス・パリスだとされてるがやはりトロイの王子であるるる~

ガニュメデスはゼウスに浚われて神々の饗宴で酌童となり
ゼウスの妻ヘラの嫉妬から星にされてしまった不憫な王子だったが
パリスも生まれる前から数奇な運命に翻弄される不運な王子で
でもそこはさすがトロイ王家の王子らしく
ガニュメデスに負けず劣らずの美麗さを誇ってるのだった・・・ホゥ(*-∀-)

実はアレクサンドロス大王に惹かれるのも
フランスのパリス(日本語ではパリと表記するがParis)に憧れを抱くのも
元はこのトロイの王子アレクサンドロス・パリスにある

ところが大王の名は特にパリスに因んでつけられたのでなく
フランスの都市名の由来もこのパリスではなかった。(゚д゚lll)ギャボ

ケルト神話と中世騎士物語―「他界」への旅と冒険 (中公新書)

思いもよらなかったが『ケルト神話と中世騎士物語』の冒頭に

(前略)その美しさはパリがその名を選ぶにあたって「イスのような町(Par-Is)としたほどだった

とあった・・・。(´д`;)ギャボ

イスはかつてあったが海底に沈んでしまった国の名で
ブルターニュ半島の突端フィニステール(地の果て、の意)にあったとか・・・

そんなワケでどちらも残念ながらパリス違いなのだが
そうとわかってもガッカリするより嬉しい気持ちの方が断然強い

この世に存在するモノ1つ1つには存在理由が謎でも存在意義がなくても
存在する前に必ず存在するに至る過程があって
その過程には存在の直接の原因やら間接的な要因やらがある

どんなに科学が進歩しようと哲学や宗教を究めようと
人間の存在理由は人間にはわからナイだろうし
だから自分の存在意義は自分が勝手に意識するしかナイだろう

答えを得られるのは「存在の過程に何があったか?」のみなのである
その唯一得られる答えを推測するコトは愉しく、答えを得られれば嬉しい(*^^*)

愛して已まナイアレクサンドロス・パリスについて
彼の出生や生い立ち、オイノーネとの結婚にヘレネとの恋愛
そしてトロイ戦争とその最期は1冊にまとめられて詳述されておらず
異説がいくつもあったりするのでその全貌を知るのが非常に困難なのだが
だからこそこれまでの人生でずっと飽きずにその実像を希求し続けてこれたのだろう

もちろんこれからも求め続けるだろう
アレクサンドロス・パリスを紐解くコトこそが自分のライフワークなのだp(-_-+)q