オルラ(Le Horla)って何だ?

神保町の古本屋で背表紙に「『水の上』モーパッサン」とあった文庫を
トルストイの絶賛した短編『水の上』が収録されてると思い込み
値段だけ確認して中身を見ずに入手したのは2008年のコト

帰宅して目次を見た瞬間に間違いに気づいて目が点になったが
気を取り直して「解説」を読んでみると
むしろ短編『水の上』よりよほど興味が沸いたのは
これが晩年のカナ~リおかしくなってきてから書いた紀行文だったからだ

 モーパッサンの従者フランソワの『モーパッサンの回想記』によると、『水の上』ができたのは、1887年(出版されたのは、88年であるが)のように思われる。そうとすれば、彼の死んだ1893年7月3日から6年ばかり前の作である。すなわち、彼の38歳ころに書いたものである。
 モーパッサンが『ル・オルラ』を書いたのは、1887年で、そのころから彼の狂的徴候が見え出してきたと一般にいわれている。しかし、彼自身は、こういっている。「今日私は、『ル・オルラ』の原稿をパリへ送ってやった。一週間たたないうちに、すべての新聞は、私が気ちがいになったということを報ずるであろう。それは、勝手にするがよい。けれど、私は、まったく正気だ。(後略)」

改めて『筑摩世界文学大系【44】モーパッサン』の巻末の年表で確認すると
実際にはこの5年後に精神病院に送られてるので(※)
この発言にはぎくりとくるモノがあった
精神病院に送られた翌年には死んでる

ところで「ル・オルラ」ってどういう意味なのだろうか?
モーパッサン自身が先の発言の略した中で「想像の作り物」だとしてて
それが「読者をぞっとさせるであろう」としてる

綴りは【Le Horla】・・・
しかし杉捷夫編纂の仏語の辞書には載っておらず・・・バタリ ゙〓■●゙

ググってもヒットするのはまさしくモーパッサンの短編の【Le Horla】ばかりで
それが何なのか言及してある記事には辿り着けず
そうして謎が深まるほどに『ル・オルラ』が読みたくなるるる~

モーパッサン短編集 (3) (新潮文庫 (モ-1-8))

これが新潮文庫の『モーパッサン短編集 III』に収録と知って
早速購入して、まずはやはり「解説」から読み始めたが
何ら目ぼしい情報は見当たらず、観念して(?)『オルラ』の本編を読んだ

『オルラ』は日記形式で綴られてる小説だったが
終盤になっても「ル・オルラ」らしいモノはどこにも記されておらず
何度か今自分が読んでるのが本トに『オルラ』なのか確認してしまうほどだったが
それは間違いなく『オルラ』だった

日記を綴ってる主人公の男は平凡な日常を非凡な感覚で送ってて
およそ常識的に生きてるが常識の無意味さを直観でわかってるようで
最初の方でこんなコトをぼやいてる

 この「眼に見えぬもの」の神秘が、いかに深遠であることよ!われわれのあわれな五官では、その神秘を測ることはできぬのだ。われわれの眼にしたところで、あまりに小さいもの、あまりに大きいもの、あまりに近いもの、あまりに遠いものは、認めることができぬのだ。星の世界の住民も、一滴の水のなかの住民も、見ることはできぬのだ・・・。われわれの耳にしてもおなじことで、われわれを欺いてるのだ。なぜなら、耳は、空気の震動を、音調としてわれわれに伝えるではないか。いったい、耳なんて化け物だ。それは、空気の運動を音に変えてしまう奇蹟を行い、そして、この転身によって、自然の無言の動揺をして、音律的なものたらしめる、かの音楽を生むではないか・・・。(後略)

ポカーン。(゚д゚ )

そうそう、その通り!
と、共鳴しつつもこの感覚が気ちがい特有のモノなのだとしたら
幼少時からずっとこの疑念に捉われてきた自分は頭がおかしいのか。(゚д゚lll)ギャボ
いや、今更ながら驚愕するほど自覚がなかったワケではナイw

そして主人公の男はこんなコトも言い出す

神はおのれの姿に象って人間をつくった。そのお返しに、人間はおのれの姿に象って神をつくった。

ヴォルテールのこの言葉ほど的を得た神の定義はナイと思ってたが
主人公の男もそう感じてるるる~

結局、結末まで「ル・オルラ」が何かはわからなくて
読み終わってからあれこれ考えても納得の行く答えは見つからなくて
ただ【Le Horla】がモーパッサンの造語なのだとはわかったが
恐怖でぞっとするよりも不可解さがもやもやした気分を募らせた

再度、紀行『水の上』の「解説」に戻ってみると
モーパッサンのこんな言葉があった

要するに、不思議だとか、不可解だとかいうことは、その人の理解が足りないからである

そうなのだ(゚*゚;)
そしてその理解不可能なモノが自分にとって危険な存在に思えると
恐怖となって自分の心を捉えるのだ。(´д`;)ギャボ

それにしても当初の目的だった短編『水の上』も
この『オルラ』収録の新潮文庫の『モーパッサン短編集 III』にあったりして
間違って回り道をしたようで読む順番的にもちょうどよかった

モーパッサン短篇選 (岩波文庫)モーパッサン傑作選 (ハルキ文庫)

ところで短編『水の上』はさすがトルストイも絶賛なだけあってか
モーパッサンの短編の代表作らしく新潮文庫以外でも
岩波文庫の『モーパッサン短篇選』でも
ハルキ文庫の『モーパッサン傑作選』でも
必ず入ってたので探すまでもなかったのだヽ(゚∀。)ノ

ちなみに後から調べてわかったのだが
紀行『水の上』も短編『水の上』も原題は【Sur l’eau】でまさに「水の上」だが
短編の方は最初に発表された時点では【En canot】で「ボートで」だった